契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「じゃあ、すごく下手だったとか? …もしそうだとしたら、すごく意外なんだけど。あの副社長がまさかね」

「違う違う!」

 晴香は慌てて声をあげた。

「す、すぐに子供を作るわけじゃないから、ま、まだしてないの。お友達結婚だからね、本当に必要な時だけするんだと思う。でも…」

 言いかけて、晴香は口を噤んでうつむいた。
 自分に起きている現象をうまく言葉にできる自信がない。
 梨乃が少し心配そうにしているのをチラリと見て、晴香は言葉を選びながら話し始めた。

「孝也は、ちょっとずつ慣らしていこうって言ったのね。そ、その、いざとなったら、私が孝也と…で、できるように」

 なるべくマイルドに伝えようとした晴香の言葉に、梨乃がビールをごくりと飲んで、目を丸くした。

「慣らすって…。それって、副社長の優しさなんだろうけど、なんだかすごくいやらしく聞こえる…」

 率直すぎる感想に、晴香はまた真っ赤になってしまう。実際彼女の言う通りなのだから反論のしようがないと思う。
 梨乃が少し心配そうに眉を寄せた。

「でもつまりはスキンシップをとって夫婦らしくなりましょうってことでしょ? 晴香はそれが受け入れられないってこと?」

 晴香はうつむいたまま、ゆっくりと首を振る。そして恥ずかしい気持ちを抑えて、ここのところ晴香を悩ませていたことの核心を口にした。

「…それがね、逆なの」

「逆?」

 梨乃の問いかけに、晴香はこくんと頷いた。

「つまり嫌じゃないってことね?」

 もう一度、頷いた。
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