契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 眉を下げてしょんぼりと肩を落とす晴香を見ながら、梨乃がポリポリと頭をかいた。

「…なんかすごくややこしいね。本当だったら、妻が夫を好きだなんて普通のことなのに…」

 晴香は黙り込んでうつむいた。
 そんな晴香をジッと見てから、梨乃はふぅと息を吐いた。

「でもさ、晴香。なんでも考えようによると思うよ。たとえ片思いだったとしても、その人とすでに結婚してるなら普通の片思いよりは恵まれていると思う。その…スキンシップだってあるなら、尚更よしだよ。好きな人とできるんだから、楽しんじゃえばいいじゃない。私としては、逆じゃなくて良かったと思うけどね。本当に友達としてしかみられなくて、触られるのがやだっていうのはつらすぎるでしょ」

 ポジティブな梨乃らしい意見だなと晴香は思う。彼女の言う通りに考えるとすれば、自分は恵まれているというわけか。
 晴香は梨乃の言葉に一応は納得をしてカクテルをひと口飲んだ。

「そうね、梨乃の言う通りかもしれない。ちょっと見方を変えてみる」

 またなんでも真面目に考えすぎるクセが出たのだと晴香は少し反省する。三年前の恋ではそれで、大失敗をした。
 晴香がそんなことを考えていると、さすがは親友、梨乃が同じようなことを口にした。

「なんにせよ、晴香がどんな形でも三年前のアイツのことを忘れて、新しい何かに踏み出せたのなら、それだけでもいいと思うよ」

 三年前、晴香は社内一の成績優秀者であったある営業マンと付き合っていた。
 爽やかなルックスで女子社員からの人気も高かった彼と、どちらかというと慎重で臆病な晴香、今から考えてもどこかちぐはぐなカップルだったと思う。
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