指先で魔法を紡げたら。


わたしは仁科を知らない。

小学生の時書いたプロフィール帳の中身も。

彼がいまどう思ってるかも。


わたしは仁科を知らない。

仁科が優しくて冷たい男だってこと以外何も知らない。


「なあ、もう帰らね?」

「うん」


仁科はわたしの名前を呼ばない。決して、呼ばない。

だから、わたしも仁科の名前を呼ばない。


もしも、名前を呼んでしまったらすべてが終わってしまう気がするから。



「ねえ、見てよ。コガネムシ潰されてる」


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