ふたつの羽根

「おかえり」


家に帰って玄関で靴を脱ぐあたしにママは声を掛けてきた。


あたしはママの姿を瞬きもせずにジッと見つめる。

そんなあたしを不審に思ったのか「何?」とママはあたしを見つめる。


「あのさ…」


恐る恐る口を開くあたしに「何よ?」とママは返す。


聞いてみたいけど聞けない… 

もう過去の事。


だけど記憶にないあたしはどーしても知りたかった。 


「あのさ、あたしの実のお父さんの苗字って何?」


ママは“何、聞いてくるの?”とでも言いたそうに目を見開く。


「ねぇ…」

再度、あたしが聞くとママは目を泳がせながら「神藤よ」と呟いた。


…神藤。


聞いた瞬間、あたしは鞄の中に入っている額を確かめるようにギュッと抱え込む。 


やっぱりそうなんだ。

陸のパパなんだ。


「そう…」


素っ気なく返し階段を駆け上がるあたしに「何なの?」とママは叫ぶ。


ママの声に答えず、あたしは自分の部屋まで駆け上がる。 


そして鞄の中に入っている額とあたしの額を重ね合わせた。 


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