ふたつの羽根
ギュッと唇が切れそうなぐらい噛みしめ陸の目の前を通り過ぎ階段を駆け上がった。
路地に出ると壁にもたれてタバコを吸っている拓真先輩とバッチリ目が合い、あたしはすぐに逸らし足を進めた。
「えっ、里奈ちゃん?」
遠くの方から聞こえる拓真先輩の声を耳にしながら、あたしは家までの道を走った。
知り合いなわけないじゃん。
あんな馴れ馴れしくキスをせまる女。
わけのわからない“前の関係”を求めてくる女が“知り合い”って?
あんな迷路のような道がわかるぐらいなんだから深い関係でしょ?
家に帰った途端、潤んでいた目から一粒の涙が頬を伝って落ちた。
やっぱしあたしは“誰?”としか聞く事はできなくて、それ以上何もできない。
ほんっと嫌な性格だよ。