ふたつの羽根
ボーっとしていたのか有亜はビクッと肩をあげ、すぐに顔をあげた。
「遅いよ」
ため息交じりに話す口調は、明らかに長い時間ここに居たんだと言う事を示す。
「ごめん」
そう呟いて“入ってれば良かったのに”と続けて言うつもりが、あたしの口はすぐに閉じた。
家は何ひとつ灯りを出していない。
だれも居ないんだ。
「里奈、電話したんだよ?」
そう言われてすぐにあたしは鞄の中から携帯を取り出した。
着信履歴を見ると有亜の名前が画面に埋まっていた。
気付かなかった。
「ごめ…」
申し訳なさそうに呟くあたしに有亜は笑う。
「さっきからゴメンばっか…」
そう言ってまた笑う有亜はどことなく浮かない顔をしていた。