お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~

はじめまして、婚約相手様


▼はじめまして、婚約相手様 
 
 お見合いの場所は、都内の高級料亭でと連絡が来た。
 そして今、私と母と父は、先にお店に到着し、お相手が来るのを待っている状況だ。
 人数にしてはだいぶ広いお座敷を貸し切り、中庭には美しい桜がまだ少しだけ花を咲かせている。
 父がお見合いの申し出をOKすると、三津橋さんはとても喜んでくださったそうで、すぐにこのお店を手配してくださった。
「お母さん、こんなに良い着物持ってたんだね」
「綺麗に保管しておいて本当によかった。凛子、やっぱりあんた着物似合うね。肌が白くて、薄い和顔だからかしら……」
「薄いは余計だよ……」
 お店に立つときは、たまに着物を着るときはあったものの、こんなに格式高い着物を身に纏ったことは初めてで、緊張感が増してしまう。
 刺繍の伝統技術が駆使された赤い振袖には、華やかな牡丹の華が下に行くほど多く咲き誇っている。
 母が父とお見合いをしたときに購入したものらしく、年月は経っているものの、かなり上質なものだと素人目にも分かる。
 この着物を着る前まではそこまで緊張していなかったが、今さら急に心拍数が上がってきた。
 お相手は日本人なら誰もが知っている財閥の御曹司……。
 普通に生きていたら、会うこともない人だ。
 高校は神楽坂の高校に通っていたので、そこそこのお金持ち高校だったが、こんなに桁外れな富裕層はさすがにいなかった。
 しかし、そんなお金持ちならお見合いなんてせずとも、相応のお嬢様が周りに何人もいるだろうに……。
 急なことだったので、写真も見ずにこの日まできてしまったが、もしかしたらものすごく性格に難があったり、服装が派手だったり、我儘だったりするのだろうか。
 不安が渦巻いて、膝の上に置いた手に汗がじんわりと浮かんできたころ、すっと襖が空いて、空気が変わった。
「いや、申し込んだ側が遅れて申し訳ない」
 申し訳なさそうに入ってきたのは、父の旧友であり、現三津橋財閥の中心となる方……三津橋文博(フミヒロ)さんだ。
 灰色の高そうな着物を身に纏い、明らかに普通の六十代とは思えないオーラと若さを持ち合わせている。
 そんな彼のうしろに……、さらに華やかなオーラを放っている人が見えた。
「三津橋高臣と申します。本日はよろしくお願い致します」
 ――どんな優美な景色も霞むくらい、高臣さんは美しかった。
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