お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
「あはは、高臣さんはもう少し弱点増えたほうが、人間味あっていいですよ」
「人間か……」
すでに完璧すぎる彼を、庶民の私が守ってあげたいだなんて、おかしな話かもしれない。
だけど私は、和菓子をひとつひとつ愛情をこめて作るように、この人との一日一日を大切に築いていきたいと思ったのだ。
〇
管理栄養士としての、出勤最終日。
ロッカーを開けると、いつも入っているはずのコックシューズがなく、部屋の隅にあるごみ箱に捨てられていた。
その光景を見て、「なんてべたな……」と思っていると、岡田さんが隣でブチ切れ始めた。
「まじで井山ってやつ、なんなの!? ただの僻みじゃん。やることも幼稚だし」
「お、岡田さん、聞こえてしまうかも……!」
「聞こえるように言ってんの!」
憤慨した様子の岡田さんは、井山さんがいるはずの休憩室のドアを睨みつけていた。
「したたかな女」として噂を流されてから一週間。岡田さんが「面白おかしく誇張された話をするな」と言いまわってくれたおかげで、井山さん以外の社員の皆さんの噂話はわりと沈静化した。
「岡田さん、本当にありがとうございます……」
「パートのおばちゃんたちがすぐに静まったのは、普段の高梨ちゃんの信頼のおかげで、私は何もしてないよ」
「そんなことないです、岡田さんが真っ先に信じてくださったから……」
「信じたっていうか、人の結婚に口出しする意味が分からなかっただけ。しかしまあ、これからも波乱万丈な人生になりそうだねぇ……」
「あ、あはは……」
同情したような岡田さんの表情に、私は乾いた笑みをこぼす。
うん、本当にそうだ。
高臣さんと結婚するということは、こんなことただの序章に過ぎないだろう。
ここでいちいち折れていたら、三津橋家の嫁として務まらないかもしれない。
これからのことを考えて少し心配になっていると、休憩室のドアが開いて、井山さんがロッカールームに入ってきた。
「井山、いったいどういうこと……」
「井山さん、靴を捨てたのは井山さん?」
怒り全開の岡田さんの言葉を遮って、私はまっすぐ彼女の目を見つめて問いただした。
井山さんは表情をまったく変えずに、当然のごとくしれっと答える。
「今日辞めるのに、ロッカーの中がまだ片付いていなかったようなので」
いやいや、ちょっと早すぎないか。
「人間か……」
すでに完璧すぎる彼を、庶民の私が守ってあげたいだなんて、おかしな話かもしれない。
だけど私は、和菓子をひとつひとつ愛情をこめて作るように、この人との一日一日を大切に築いていきたいと思ったのだ。
〇
管理栄養士としての、出勤最終日。
ロッカーを開けると、いつも入っているはずのコックシューズがなく、部屋の隅にあるごみ箱に捨てられていた。
その光景を見て、「なんてべたな……」と思っていると、岡田さんが隣でブチ切れ始めた。
「まじで井山ってやつ、なんなの!? ただの僻みじゃん。やることも幼稚だし」
「お、岡田さん、聞こえてしまうかも……!」
「聞こえるように言ってんの!」
憤慨した様子の岡田さんは、井山さんがいるはずの休憩室のドアを睨みつけていた。
「したたかな女」として噂を流されてから一週間。岡田さんが「面白おかしく誇張された話をするな」と言いまわってくれたおかげで、井山さん以外の社員の皆さんの噂話はわりと沈静化した。
「岡田さん、本当にありがとうございます……」
「パートのおばちゃんたちがすぐに静まったのは、普段の高梨ちゃんの信頼のおかげで、私は何もしてないよ」
「そんなことないです、岡田さんが真っ先に信じてくださったから……」
「信じたっていうか、人の結婚に口出しする意味が分からなかっただけ。しかしまあ、これからも波乱万丈な人生になりそうだねぇ……」
「あ、あはは……」
同情したような岡田さんの表情に、私は乾いた笑みをこぼす。
うん、本当にそうだ。
高臣さんと結婚するということは、こんなことただの序章に過ぎないだろう。
ここでいちいち折れていたら、三津橋家の嫁として務まらないかもしれない。
これからのことを考えて少し心配になっていると、休憩室のドアが開いて、井山さんがロッカールームに入ってきた。
「井山、いったいどういうこと……」
「井山さん、靴を捨てたのは井山さん?」
怒り全開の岡田さんの言葉を遮って、私はまっすぐ彼女の目を見つめて問いただした。
井山さんは表情をまったく変えずに、当然のごとくしれっと答える。
「今日辞めるのに、ロッカーの中がまだ片付いていなかったようなので」
いやいや、ちょっと早すぎないか。