お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
「ようやく高臣さんのお母さまともお会いできること……楽しみにしています」
「……ああ」
 一瞬、途方もない問いかけが頭をよぎったが、凛子の顔を見たら吹っ飛んだ。
 愛しさに胸がいっぱいになる中、俺は決意を固めるように彼女を抱き締め、そっと目を閉じたのだった。
 
 〇
 
 場所は、赤坂にある高級料亭だ。
 凛子は着物を京香さんに着付けをしもらうために実家へ戻り、両家それぞれ車で集合することになっている。
 部屋は当然貸し切りで、美しい中庭の景色が一番よく見える部屋を予約した。
 庭にある小さな川が流れる音だけが、部屋の中に響いている。
 病弱な母も、最近は容体が安定していたようで、無事に父親と一緒に来ることができた。
 留袖姿の母は、緊張した面持ちで父の横に座っている。
 凛子のご両親も、同じように表情をかたくして、儀式を淡々と進めていく。
「そちらは高梨家からの結納でございます。幾久しくお納めください」
「ありがとうございます。幾久しくお受けいたします」
 凛子の父親である玄さんから結納品を受け取ると、俺は深々と頭を下げる。
 そして、顔を上げたときに振り袖姿の凛子と一瞬目が合った。
 ――牡丹と菊と藤の花が美しく刺繍されている、赤い振袖を身にまとった凛子は、いつも以上に美しく輝いて見えた。
 子供の様に表情をころころと変える凛子も好きだが、今日のように大人びた様子の彼女にも心奪われてしまう。
 そして、父の締めのあいさつが終わると、無事に祝宴が始まった。
 
「いやー、本当にとんとん拍子で縁起がいいな。玄、本当にありがとう。これからもよろしく頼むぞ」
「文博、まさか同期から家族になるなんてな」
 いつもより上機嫌な様子の父親が、席を移動し、日本酒を玄さんと酌み交わしている。
 形式に忠実な式が終わり、ようやく全員肩の力が抜けて、口数が増え始めた。
 凛子はまだ緊張しているようだったが、そんな様子を見かねた京香さんが、空気を和ますように話し始める。
「うちの子、一度緊張するとなかなか戻らなくって……。久々の振袖で体が強張っちゃってるんじゃないかしら」
「凛子さんのお着物は京香さんが選ばれたんですよね……さすがセンスがいいですね。凛子さんにとても似合っていて素敵です」
「やだそんな、高臣さんも紋付袴姿素敵だわ。ああ、こんなに美味しいお酒人生で初めてだわ」
< 108 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop