お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
「お、お母さん、お酒そんなに強くないんだから気を付けてね……!」
日本酒をぐいっと飲む京香さんを、隣で凛子が心配そうに見ている。
そんな様子を眺めながら、ずっと大人しく見守っていた母が、ゆっくりと口を開いた。
「凛子さん、本当にありがとうね……」
「沙織(サオリ)さん、そんな、こちらこそありがとうございます……」
母が、黒髪をピシッとひとつにまとめている姿を見たのは、いつぶりだろう。
父の一歩うしろについて、常に慎ましく大人しく生きてきた母は、どんなときも穏やかに笑っている。
幼いながら感情が読めない人だと思っていたけれど、今日は特別に嬉しそうにしていることが十分伝わってきて、自分でも驚いた。
細く長い指で、凛子の手をそっと両手で取ると、願うように頭を下げる。
「改めて、高臣をよろしくお願いいたします。体が弱くて、この日までちゃんとご挨拶できずにごめんなさいね……」
「お母さま、そんなことお気になさらないでください。たまにお電話できただけでも嬉しかったです」
凛子は焦ったように母の謝罪を否定し、手を握り返していた。
ようやく会えた二人だが、お互いに今日が初対面なので緊張している様子だ。
……母親は、俺が縁談を何度断っても、何も言わずに受け入れてくれる人だったので、そこまで俺の結婚に期待をしているようには見えなかったけれど……じつはそうではなかったのだろうか。
「うちはちょっと特殊な家だから、もし何かあったら相談してね」
「お母さま……」
「高臣も、そんな家で抑圧され続けてきたから……、凛子さんがぜひ色んなことを教えてあげて下さい。生きていくうえで、本当に大切なこと」
「え……」
母の言葉に、俺は一番不安に思っていた部分をぐさっと刺されたような気持ちだった。
昨夜も一瞬よぎった不安の正体……それは、自分にはあまりにも欠陥している感情が多いということだったのだろう。
今ようやく、形のない不安の原因が分かった。
この先いつか、彼女が何か大きな悲しみに襲われたとき、俺はちゃんと彼女を救い出せるだろうか。
この年になるまで、彼女に出会うまで、俺はきっといくつもの大切な感情を見逃してきている。
……彼女はいつか、そんな自分に幻滅しないだろうか。
不安に駆られ何も言えずにいると、凛子はいつもと同じように明るい声でこう答えた。
日本酒をぐいっと飲む京香さんを、隣で凛子が心配そうに見ている。
そんな様子を眺めながら、ずっと大人しく見守っていた母が、ゆっくりと口を開いた。
「凛子さん、本当にありがとうね……」
「沙織(サオリ)さん、そんな、こちらこそありがとうございます……」
母が、黒髪をピシッとひとつにまとめている姿を見たのは、いつぶりだろう。
父の一歩うしろについて、常に慎ましく大人しく生きてきた母は、どんなときも穏やかに笑っている。
幼いながら感情が読めない人だと思っていたけれど、今日は特別に嬉しそうにしていることが十分伝わってきて、自分でも驚いた。
細く長い指で、凛子の手をそっと両手で取ると、願うように頭を下げる。
「改めて、高臣をよろしくお願いいたします。体が弱くて、この日までちゃんとご挨拶できずにごめんなさいね……」
「お母さま、そんなことお気になさらないでください。たまにお電話できただけでも嬉しかったです」
凛子は焦ったように母の謝罪を否定し、手を握り返していた。
ようやく会えた二人だが、お互いに今日が初対面なので緊張している様子だ。
……母親は、俺が縁談を何度断っても、何も言わずに受け入れてくれる人だったので、そこまで俺の結婚に期待をしているようには見えなかったけれど……じつはそうではなかったのだろうか。
「うちはちょっと特殊な家だから、もし何かあったら相談してね」
「お母さま……」
「高臣も、そんな家で抑圧され続けてきたから……、凛子さんがぜひ色んなことを教えてあげて下さい。生きていくうえで、本当に大切なこと」
「え……」
母の言葉に、俺は一番不安に思っていた部分をぐさっと刺されたような気持ちだった。
昨夜も一瞬よぎった不安の正体……それは、自分にはあまりにも欠陥している感情が多いということだったのだろう。
今ようやく、形のない不安の原因が分かった。
この先いつか、彼女が何か大きな悲しみに襲われたとき、俺はちゃんと彼女を救い出せるだろうか。
この年になるまで、彼女に出会うまで、俺はきっといくつもの大切な感情を見逃してきている。
……彼女はいつか、そんな自分に幻滅しないだろうか。
不安に駆られ何も言えずにいると、凛子はいつもと同じように明るい声でこう答えた。