お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 岡田さんと井山さんの関係性が初めは不安だったけれど、仕事上ではうまく回っているようでホッとした。
 岡田さんに限らず、パートのおばさんたちもたまに買いに来てくれることが、今は本当に嬉しい。
 まだ井山さんが来てくれたことはないけれど、気長に待ってみようかなと思う。
「忙しいところ邪魔してごめんね。じゃ、このおはぎ買って帰るわ」
「こちらこそ、わざわざ休日にありがとうございます! また来てください」
「はーい、仕事頑張ってね」
 そう言って彼女は明るく笑ってレジへと向かった。
 あまり普段和菓子を食べたことはなかったという岡田さんだけど、和菓子の魅力にハマったと以前言ってもらえて、それが本当に嬉しかった。
 管理栄養士として知識を蓄えられたことはもちろん、あの職場で岡田さんのような人に出会えたことは、どれもかけがえのない経験だ。
 岡田さんの笑顔を見て、「よし、今日も頑張りますか」と胸の中で唱えて気合を入れたのだった。
 
「今日も盛況でしたねー。忙しいと時間経つの早くていいですね」
「茉奈ちゃん、なんてたくましい発言……いつもありがとうね」
 店内に営業終了のアナウンスが流れ、お客さんがぞろぞろと帰っていった頃。
 レジ締めをしながら。茉奈ちゃんが明るく「今日もお疲れ様でした」と言ってくれた。
 その言葉を聞いて、肉体的な疲労が少し和らいだ。
 いくら和菓子が大好きと言っても、朝の仕込みから営業終了まで働く日はさすがに疲れる。
 わずかに売れ残った商品を箱に集めていると、お客さんがくる足音がうしろから聞こえた。
 即座にレジにいた茉奈ちゃんが、申し訳なさそうに声をかける。
「あの、すみません、今日はもう閉店してしまって……あ!」
 茉奈ちゃんが大きな声をあげたので、私も慌てて背後を振り向く。
 すると、そこには女の子を片手に抱いた、スーツ姿の男性が立っていた。
 それは紛れもなく、仕事終わりの高臣さんだった。
「高臣さん! どうしたんですかわざわざお店まで」
「え! 店長のお知り合いなんですか!?」
 レジにいた茉奈ちゃんが、驚いたように私と高臣さんの顔を交互に見ている。
 もしかして、さっき雑談していた幼女とサラリーマンは、私の家族のことだったんだろうか……?
 私は茉奈ちゃんに「知り合いというか、夫です」と紹介すると、彼女はさらに大きな声をあげた。
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