お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
「は、はい。委託なので、いつ異動するか分からないですが……」
 仕事人間っぽい感じはとても伝わってくるけれど、ずっと縁談を断り続けていたなんて……ますますどうして今回は申し出てくれたのかが、分からない。
 疑問がありすぎて、思わず眉間にしわが寄りそうになったところで、高臣さんが静かに口を開いた。
「ご挨拶早々に申し訳ないのですが、ぜひ凛子さんとふたりきりで、お話させて頂けませんでしょうか」
 頭を下げてお願いされ、私は突然のことに戸惑い、両親に救いの視線を送った。
 すると、母が慌てて顔を上げるように高臣さんにお願いする。
「どうぞお顔を上げてください。若い者ふたりでお話した方が、お互いのことが分かるでしょうから……。ねぇ、凛子」
「ぜ、ぜひ、よろしくお願いします」
 母の言葉に押されて、私もぺこりと頭を下げた。
 母は、一対一で話して、きちんと高臣さんの人間性も見てきてほしいという思いなのだろう。とても真剣な顔をしていた。
 高臣さんは表情ひとつ変えずに御礼を伝え、「中庭を一緒に歩きませんか」と提案してきた。
 私は言われるがままに頷き、着物が乱れないようにゆっくりと立ちがると、桜の花が綺麗な中庭へと向かった。
 
 いったい、何を話したらいいのだろうか……。
 高臣さんのあとをついて、ぐるぐると頭の中で会話のネタを考えながら石畳の上を歩く。
 そういえば、勢いあまってお見合いに挑んだけれども、永亮以外の男性とふたりきりになったのは、何年ぶりだろうか。
 いや、自分の経験値が足りないのは今さらどうすることもできない。
 それよりも、聞きたいことがある。
 どう考えても、高臣さんにとってメリットが少ないこのお見合い……どうして申し出てくれたのだろうか。
「凛子さん」
「は、はい!」
 両親の部屋からは見えない距離まで離れると、高臣さんはぴたりと歩みを止めた。
 ゆっくりと私の方を振り返るときに風が吹いて、本当に映画のワンシーンのように美しくて震えた。
「……正直な話をしても良いか」
 先ほどまで敬語だったのに、急に冷たい口調でそう問いかけられたことに驚きながらも、私はこくりと頷く。
「この縁談は、ビジネス的な繋がりがあってこその縁談だと思っていてほしい」
「え……」
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