お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
長身の彼が少しかがむと、ふわっと香水のいい香りがほんのり漂って、心臓がドキンと大きく高鳴った。
「……これは、春限定の商品では」
「あ……はい! 桜の餡を使った生菓子なんです。四月限定の商品で、お店だと午前中には売り切れてしまうんです。餡には桜の香りも、程よい塩気も絶妙に混ざっていて、口の中に入った瞬間春の風が感じられるというか……」
そこまで早口で語ってから、私はハッとした。
高臣さんにとってまったく興味のないことを、こんなにも熱く語ってしまうなんて……。
昔から自分の家の和菓子のことになると、我を忘れて語りすぎるという悪い癖が出てしまった。
きっと彼も呆れ返っているだろう。
さらに赤面しながら彼の顔をおそるおそる見上げると、そこには予想外に優しい顔をした高臣さんがいた。
あ、この人、瞳の奥はなんだか優しい色をしている気がする……。
そんなことに、今この瞬間気づいてしまった。
「……本音を言うと、高梨園の経営がそんなによくないと聞いて、守りたいと思ったんだ」
「え……」
「高梨園の和菓子は幼いころから食べていた思い出の味だ。家族の形も、仕事環境も、周りで働く仲間も、日々めまぐるしく変わる中で、変わらないものがひとつあるだけで……心が落ち着いたりする」
さっきまでの冷たい瞳はどこへやら、うちの和菓子を見つめる高臣さんの瞳の中には、優しい色が混じっていた。
――彼は本心で話してくれている。
そう感じとるには十分すぎるほど、彼の声音は柔らかかった。
本当にうちのお店を守りたいと思って……高臣さんにとっての"変わらないもの"を守りたいと思って、この縁談を申し出てくれたんだ。
なんだか、胸の奥が熱くなってくる。いったい、この感情はなんだろう。
さっきまでの警戒心がするすると嘘みたいにほどけて、高臣さんに対する信頼感でいっぱいになってしまった。私はなんて、単純な人間なんだ。
「君が信じられないのも無理はない。赤の他人が店を守ろうだなんて、余計なお世話だと感じたのなら、今断ってくれていい」
「高臣さん……」
「何度も言うが、俺は結婚相手に何も求めない。これは政略結婚だ。気持ちなんて一切いらないし、もしどちらかが私情を挟んだら別れることも考える。俺は守りたいものとビジネスのチャンスが重なっただけで、この縁談を申し込んだ。もしそれでもいいなら――……」
「……これは、春限定の商品では」
「あ……はい! 桜の餡を使った生菓子なんです。四月限定の商品で、お店だと午前中には売り切れてしまうんです。餡には桜の香りも、程よい塩気も絶妙に混ざっていて、口の中に入った瞬間春の風が感じられるというか……」
そこまで早口で語ってから、私はハッとした。
高臣さんにとってまったく興味のないことを、こんなにも熱く語ってしまうなんて……。
昔から自分の家の和菓子のことになると、我を忘れて語りすぎるという悪い癖が出てしまった。
きっと彼も呆れ返っているだろう。
さらに赤面しながら彼の顔をおそるおそる見上げると、そこには予想外に優しい顔をした高臣さんがいた。
あ、この人、瞳の奥はなんだか優しい色をしている気がする……。
そんなことに、今この瞬間気づいてしまった。
「……本音を言うと、高梨園の経営がそんなによくないと聞いて、守りたいと思ったんだ」
「え……」
「高梨園の和菓子は幼いころから食べていた思い出の味だ。家族の形も、仕事環境も、周りで働く仲間も、日々めまぐるしく変わる中で、変わらないものがひとつあるだけで……心が落ち着いたりする」
さっきまでの冷たい瞳はどこへやら、うちの和菓子を見つめる高臣さんの瞳の中には、優しい色が混じっていた。
――彼は本心で話してくれている。
そう感じとるには十分すぎるほど、彼の声音は柔らかかった。
本当にうちのお店を守りたいと思って……高臣さんにとっての"変わらないもの"を守りたいと思って、この縁談を申し出てくれたんだ。
なんだか、胸の奥が熱くなってくる。いったい、この感情はなんだろう。
さっきまでの警戒心がするすると嘘みたいにほどけて、高臣さんに対する信頼感でいっぱいになってしまった。私はなんて、単純な人間なんだ。
「君が信じられないのも無理はない。赤の他人が店を守ろうだなんて、余計なお世話だと感じたのなら、今断ってくれていい」
「高臣さん……」
「何度も言うが、俺は結婚相手に何も求めない。これは政略結婚だ。気持ちなんて一切いらないし、もしどちらかが私情を挟んだら別れることも考える。俺は守りたいものとビジネスのチャンスが重なっただけで、この縁談を申し込んだ。もしそれでもいいなら――……」