お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
「あ、でもここの代表、超男前だよね! この前女性社員が騒いでるの聞いてHPの顔写真見てみたら、超イケメンなの!」
「ぶっ……」
「それで財閥系の御曹司なんて、いったいどんな女性とだったらお似合いだねってなるのかねぇ……」
 突然高臣さんの話題になったので、私は思わずむせてしまった。
 まさかその相手が私だなんて誰かに知られたら、批判が殺到するに違いない。
 高臣さんはお見合いを何度も断ってきたと言うし、そこを差し置いてどうして私なのか……私だって聞きたい。
 とにかく、このことは正式に結婚するまで秘密にしておかねば。
 無駄な波風を立てて、高臣さんに迷惑をかけるわけにはいかないし……。
 まあ、この職場で高臣さんと会うことはありえないし、彼はほとんど現場におらず、外部の取引先と仕事をすることが中心だ。だからバレる心配はほとんど不要のはず。
「あ、そういえば高梨ちゃん。今日パートさんのお子さん、熱出しちゃって来られないんだって。その分早めに作業しといて、進めちゃおうか」
「あ、そうだったんですね! そうしましょう」
「高梨ちゃんの日替わりレシピ、いつも人気だよねー」
 高臣さんのことが話題に出たことにどぎまぎしながらも、私は仕事モードに気持ちを切り替えた。
 管理栄養士の仕事はとても好きだ。
 思ったよりも体力勝負で、最初はキツイことが多かったけど、だんだん経験を重ねるうちに献立の作成を任させることも多くなって、自分が考えた定食が売り切れになるとすごく嬉しい。
 若い人が好きな味つけと、摂取してほしい栄養素の掛け算を考えることが、この仕事で一番のやりがいだ。
 いつか私も、高梨園でこの学びを活かして、新商品を作ってみたい……。
 職場の人には和菓子屋を継ぐことを伝えてあるけれど、この百貨店で再び働くことになると知ったらどう思うだろうか。
 今はまだ計画途中なので話せないけれど、ここでの経験をしっかり活かせるように、最後までちゃんと勤めよう。
 そう心に誓って、私は厨房の中へと入った。
 仕事モードになると、不思議と頭の中の雑音が消えて、私はいつも通り食材と真剣に向き合う時間を過ごした。
 
「人手足りなくてひやひやしたけど、今日もなんとかランチ間に合ったね」
 すべての食材を作り終えて、岡田さんとパートさんたちと一緒に、ほっと一息ついた。
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