お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 まさかこの関係を秘密にすること自体忘れていたとか……?
「じゃあその日替わりを」
「わ、分かりました……。あ、食券の買い方とか分かります?」
「当たり前だ」
 お金持ちは食券の買い方を知らないかもと思って一応聞いたが、高臣さんは会話途中で速攻で食券を購入していた。
 余計なお世話でした、すみません……。
 私はそう心の中で謝りながらも、周りのざわついている声に紛れて、こそっと高臣さんに耳打ちをした。
「高臣さん、なぜここに……」
 まさか私の仕事能力が低かったら、出店の話はなしにするつもりとかじゃ……。
 しかし返ってきた言葉は、予想の斜め上すぎるものだった。
「凛子の手料理が食べてみたくなった」
「は……」
 私の……手料理……?
 予想外過ぎる発言に、一瞬すべての感情が宇宙空間へと放り投げだされた。
 私の手料理なんかを食べるために、なぜ仕事の忙しい合間にわざわざ食堂まで足を運んだのか。
 謎は深まるばかりだったが、私はなんとか正気を取り戻して、かなり小声で強めに突っ込みを入れる。
「そんなもの、言ってくださればいつでも家で作りますよっ……、わざわざこんなに社員をざわつかせることしなくてもっ」
「そうか。政略結婚なのに作ってほしいと頼むのは失礼だと思った」
「へ……」
 またも予想外の発言に、私は再び言葉を失ってしまう。
 高臣さんなりに考えて、この行動が正しいと思って、わざわざ来てくれたということなのか……。
 言ってくれれば、料理なんていくらでも作るのに。
 ただでさえ、家賃はすべて高臣さんが払ってくれているのだから。
 私の方が与えてもらっているものは多いのに、そんな配慮をしてくれる高臣さんが、とても不器用で愛しく思ってしまった。
「さ、差し支えなければ、今日の夕飯から食事は私が作りますけど……」
「……仕事で作って、家でも作るのは気がまいらないか」
「いえ、料理はもともと好きですし、毎日自炊が日課なので……。あっ、大したものは作れませんけど!」
 毎日食事を作るなんてことをしたら、高臣さんのプライベートなことに介入しすぎて、嫌がられるかと思っていた。
 だけど、私の提案を聞いた高臣さんは優しく目を細めて「そうか。じゃあ無理のない範囲で頼む」と言って、私の前を通り過ぎて行ったのだ。
 その笑顔がとても優しくて、ドクンと胸が高鳴る。
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