お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 ついつい、私だけに見せてくれる表情なのではと、勘違いしてしまいそうになる。
 知れば知るほど……、高臣さんの冷たい第一印象からかけ離れていく。
 こんなことをされたら、もしかして大切にされているのではと……、そんな気持ちになってしまう。
「あの……、メニュー頼んでもいいですか?」
「はっ、すみません!」
 お客さんの声にハッとして、私は顔を上げた。
 いけない。また高臣さんのモテる行動に当てられてしまった……。
 窓際の席で社食を食べている高臣さんをちらっと横目で見ながら、私はその日どぎまぎしながら一日を過ごしたのだった。
 
 〇
 
 重厚な扉を開けると、モデルルームのような部屋が広がる。
 この光景に、一週間ほどではとても慣れることができない。
 仕事を終えた私は、自分の部屋まで一直線で向かい、自分の部屋に置いたソファにそのまま突っ伏した。
「疲れた……」
 今日のお昼に高臣さんが食堂にやってきたという噂はたちまち広がり、その効果か食堂に
 やってくるお客さんがいつもの倍だった。
 高臣さん自体が広告みたいなものだから、集客効果がありすぎて、厨房は突然多忙を極めたのだ。
 ただでさえ今日は働き手が少ないというのに、まさかの大繁盛。
 何人もの女性社員に、『高臣さんが来たって本当ですか?』と聞かれ、答える羽目となった。
 高臣さんの会社での人気度合いを改めて知ることとなり、こんな有名人と婚約しているというプレッシャーで、仕事が終わるまで胃が痛くて仕方がなかった。
 体力的にも精神的にも疲れ果てた私の体は、ソファーと接着剤でくっついたかのように動かない。動かせない。
 高臣さんは、あと二時間遅く返ってくるとメッセージがきていた。
 それまで、少しだけ休もう……。
 私はどんどん重たくなっていく瞼に抵抗することなく、そのまま目を閉じた。
 
 ……水の音が聴こえる。
 なぜだろう。お隣さんからシャワーの音が漏れているのだろうか。
 このアパート、壁が薄くて生活音が駄々漏れなんだよなあ……。
 ああ、そういえば、更新料をそろそろ大家さんに払わないといけないんだった。
 明日お金をおろしてこなきゃ……。
「凛子」
「ん……?」
 ぼんやりとした景色の中に、極上の顔面が浮かんでくる。
 毛先には水が滴っていて、イケメン俳優がお風呂からがったときの映像のようだ。
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