お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 丁寧に炊いたうちの粒あんが最高に美味しいと、メディアにも何回も取り上げられた。
 そんな高梨園は……私の一番の誇りだ。
「あら凛子。またうちに戻ってきてたの。仕事大変だろうに」
 仕事着で台所に入ってきた私に、母親が驚いたように声をあげた。
「お母さん、そんなこと気にしないで。明日はお茶会用の発注があるし、忙しいでしょ」
 仕事が休みの日に、私は月に三回のペースで実家に戻ってお店を手伝っている。
 一人暮らしの家から実家までは電車で三十分ほどで、大した距離ではない。
 私の実家は一階がお店で、二階が台所と居間、三階が寝室になっている作りなので、あんこの甘い香りがそこら中に漂っているのだ。
 今日はもう営業時間が過ぎ、母は夕飯を作っている最中だった。
 私は薄手のコートを脱いで、母が作っているご飯を覗きにいく。
 お店を手伝いに来たというのは本当だけど、じつは母の手料理が食べたくて実家に帰ってきているのも大きい。
 甘じょっぱい醤油が染み込んだ里芋の煮っころがしは、私の大好物だ。
「わーい、仕事終わりに手料理が食べられるなんて最高。……あ、そういえば、今日お父さんとお兄ちゃんは?」
「今日はお父さんは急に旧友に呼ばれて飲みに行ってるよ。隆(タカシ)は奥さんの実家で夕飯食べてくるって」
「そうなんだ。じゃあふたりの分も食べられるねこの煮っころがし」
「もう、そんなに食い意地はってどうするの……管理栄養士なのに」
「だってお母さんの手料理好きなんだもん。ちょっとひとついただきまーす」
「こらっ、はしたない。つまみ食いしないの」
 ほくほくとした里芋の食感に、心がほわんと優しくほぐれていく。
 母が作る手料理は、うちの和菓子とおんなじ柔らかい味がして大好きなんだ。
 高梨園の和菓子は、店頭販売のほか、お寺や茶道会館、ホテル茶席などにも販売しているので、まとめて発注が来たときはとても忙しくなる。
 しかし、最近は徐々にまとまった発注が少なくなっていた。
「最近売り上げ、どう……?」
「そうねぇ、ホテルが潰れてしまったのがやっぱり痛いわね……」
「そっか……。ねぇ、うちって、やっぱり百貨店とかには商品出さないの?」
「お父さんが、どうしてもね……」
 じつは、一番大きな取引先だったホテルが潰れてしまい、店の売り上げは最近厳しい。
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