お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 寝ぼけ眼のままその人の瞳を見つめていると、ゆっくりとピントが合っていき、ついに意識がはっきりしたとき私は飛び起きた。
「はっ! すみません、私仕事から帰ったまま寝てしまって……!」
「それはいいが……、寝相が悪いな。床に何かが落ちた音が聞こえたから慌てて風呂から出たら、凛子自身が落ちてたのか」
「本当だ……床だ……」
「大丈夫か? ほら」
 スーツから着替え、Tシャツ姿のすっかりオフ仕様の高臣さんに腰を掴まれ、抱き起こされる。
 子供みたいな姿を見られてしまい、恥ずかしい……。
 起き上がりちらっと時計を見ると、時刻は二十三時を示していて、私は顔を青ざめさせた。
「す、すみません……! 今日ご飯作るって言ったのに、私……!」
「凛子の手料理が食べられるのは嬉しいが、作れるときでいい。さっきコンビニで適当に買ってきたから、好きなのを食べろ」
「た、高臣さんを……コンビニに行かせてしまったんですか、私は……」
「……昼も思ったが、凛子は俺の生活能力をどれだけ低いと思っているんだ」
 コンビニくらい普通に使う、と呆れた目で見られ、私は「すみません」と小声で謝った。
 だって高臣さんにコンビニは似合わないし、食堂で食券を買う様子もかなり浮いていた。
 どこまで庶民感覚を理解してもらえるのか、探っていかないと分からない。
 床に座ったまましばし沈黙すると、高臣さんの濡れた毛先から滴がぽたりと一滴私の手の甲に落ちた。
「高臣さん、髪の毛拭かないと風邪を引いちゃいますよ」
 咄嗟に、私は高臣さんの首にかかっていたタオルで、彼の髪の毛を拭いた。
 ……しまった。つい、幼いころ永亮の世話をしていたくせで、反射的に手が出てしまった。
 高臣さんは案の定、私の行動に驚いた表情を見せている。
「す、すみません、つい……」
 必然的に顔と顔の距離が近くなり、私はすっと手を離して、うしろにあるソファーに背中をぴったりつけて距離を取る。
 水の滴った高臣さんは、とんでもなく色気が漂っていて、私には刺激が強すぎる。
 気恥ずかしくてパッと目を逸らすと、高臣さんは床に膝立ちをして、私を見下ろすようにうしろのソファーに手を付けた。
「凛子は少し、無防備すぎるな」
「え……」
「この先、そこだけが唯一不安だ」
 いったい、どういう意味で……?
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