お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 何も言えずに彼の瞳を見つめていると、床に放り出されていたスマホが、手元の近くでブーブーと震えた。
 着信画面には、"永亮"の文字が表示されている。
「……男か」
「あ、はい。でもただの幼なじみで……、今は高梨園で働いているんです」
 永亮、なんというタイミングでかけてくるんだ……。
 彼は本当にただの幼なじみだけど、今この状況で高臣さんに見られてしまったことは、なぜだか少し気まずい。
 高臣さんの表情が、いつもよりずっと冷たく感じて、私は一瞬ゾクッとした。
 ギシ、とソファーが軋んで、高臣さんの顔が徐々に近づいてくる。
 スマホが床の上で震え続けているのに、高臣さんの視線が一切それに出ることを許さない。
 言葉では何も言っていないのに、彼の瞳は独占欲で煮えたぎっているように見えた。
 彼が私自身に興味があるなんて……、そんなはずはないのに。
 やがて諦めたかのようにスマホが鳴りやむと、高臣さんは真剣な顔で私の名前を読んだ。
「凛子。今日は凛子からキスをしろ」
「え……?」
「拒否権はない。理由も説明しない」
 私から、キス……?
 そんなこと、絶対にできっこない。
 この綺麗な顔に、シラフで自らキスをしにいくなんて……。昨日のように泥酔しきっていたとしてもできる気がしない。
 どうしてこんな課題を突然与えられたのかも分からないまま、私はぶんぶんと首を横に振った。
「む、無理です……! できないですっ……」
「……凛子」
「高臣さんには慣れていることでも、私にはすごくハードルが高くて……」
 きっと今、高臣さんは気まぐれでこんなことをしているんだ。
 私の反応を見て、楽しんでいるだけなんだろう。
 まだ同棲して一週間も立っていないのに、高臣さんの強引な行動やスピード感にまったくついていけていない。
 覚悟を決めて婚約を交わしたけれど、キスを要求されるとは思っていなかった。
「……俺は、手に入れたいと思ったものには一切容赦しない」
「高臣さ……」
「だから、強引にいく。凛子が完全に俺のものになるまで」
 私が、高臣さんのものになるまで……?
 高梨園が、じゃなくて、私が……?
 ダメだ。脳が正常に物事を判断できていない。
 心臓が痛いくらいに激しく動く。高臣さんの真意が分からなくて怖いから、逃げ出したい。
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