お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 こんな彼女にあの心の汚い親族を会わせて嫌な思いをさせることは、本当に心苦しい。
 かといって、避けられる問題ではない……。
「凛子。今週の土曜は空いているか」
「あ、はい! 仕事もたまたま休みなので空いてますよ。どうしましたか?」
 意を決して問いかけると、凛子はきょとんとした顔で小首をかしげている。その顔も可愛い。
 俺は言い出しにくい気持ちを堪えて、彼女に提案する。
「経営者とのパーティーがあり、そこに俺の親族も出席するんだが……。凛子も一緒に来てくれないか」
「そうなんですね、分かりました」
「……即答だな。本当に大丈夫か」
 あまりに即答だったので、俺は不安になり聞き返す。
「よく父の取引先との付き合いにも駆り出されてましたし……。高臣さんと政略結婚するということはそういうこと込みだと、思っていましたから」
「そうか。せっかくの休日なのに、申し訳ないが……」
「何言ってるんですか。あ、ひとつお願いがあるんですけど、出席者の名簿などあったら見せてもらえますか? 少しでも情報を入れておいた方がいいと思うので……」
「分かった」
 そう答えると、凛子は笑顔でうなずいて、何事もなかったかのように再び食事をはじめる。
 一緒に暮らし始めてからまだ一か月も経っていないが、この生活に不満はないのだろうか。
 まだ彼女の怒ったり困ったりした顔を見たことがないので、俺の中では逆にそれが不安な要素だ。
 何か言いたいことがあっても、政略結婚という立場上、我慢してしまっているのではないだろうかと……。
 もとはと言えば、俺が策略的な結婚を提案したせいで、自分の首も凛子の首も苦しめてしまっているのだ。
 まさかあのときは、こんなにも凛子に感情が動くと思っていなかったから……過去の自分を恨むしかない。
「凛子、何か生活で困っていることはないか」
「今は……とくにないですね」
 率直に問いかけたが、凛子は平然と「とくになにもない」と答える。
 予想できた回答に、俺は「そうか」と返して、凛子の手料理を口に運んだ。
 
 〇
 
「高臣さん、大変です!」
 土曜の朝、パーティー当日に、凛子が青ざめた顔をしてリビングに出てきた。
 俺はすでにスーツに着替えて、あとは凛子の支度が終わるまで新聞でも読んで待っていようかと思っていたところだった。
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