お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 私の瞳に嘘がないと分かったのか、父は「そうか」と静かに頷く。
「高臣くんは、一見冷たそうだが、仕事に非常に熱心だ。彼のことを信頼できる要素が……、一緒に打ち合わせを重ねるごとに増えていった」
「打ち合わせって……まさか高臣さん、ここまで来てくれてたの?」
「ああ、婚約が決まってから計五回、たったひとりで契約説明をしに来てくれたよ」
 どうやら私の知らないところでふたりはちょくちょく会っていたらしい。
 高臣さんは仕事の話を一切私にしないので、その事実を知らずにいた。
 私の実家まで何度も足を運び、今後の出店の説明を自らすべて行ってくれていたなんて…。
 高臣さんは本当に、このお店を大切に思ってくれているんだ。
 なんだかじーんとしてしまい、胸がいっぱいになってしまう。
「銀座に出店したら、そのお店はいずれ凛子に任せるからな」
「はい! 頑張ります」
「よし、久々で少し腕がなまっているかもしれねぇから、一緒に生菓子を作るか」
「え、今から付き合ってくれるの?」
「当たり前だ。気合入れてやるぞ」
 私は急いで父のうしろをついて、調理場へと向かう。
 私の知らない高臣さんを知って、なぜだろう……少し、彼に会いたくなってしまった。
 まだ出張に出たばかりだというのに。
 私に一切伝えずに、忙しい中ここまで出向いてくれた高臣さんを思って、私はその日父の厳しい指導に深夜まで集中した。
 
 『凛子の写真が欲しい』
 帰省して十日以上が過ぎた休日の朝、高梨園の食品倉庫の掃除をしていると、目を疑うメッセージが高臣さんから届いた。
 思わず、自分が寝ぼけているのかと思い、ごしごしと目をこする。
 仕事終わりにも実家に帰って、毎晩遅くまで父と和菓子作りの研究をしていたせいで、疲れがたまっているのかもしれない……。
 もう一度メッセージを読み直したが、やはり書いてある内容に変わりはなかった。
 私の写真などを送って、いったい何になるというのだろうか……。使用目的はなんだ……?
「た、高臣さんが分からない……」
 私はどうにかこのメッセージを解読しようと試みるが、ますます高臣さんの本心が見えてこない。
 まさか私の写真が見たいというわけではないだろうし、誰かに紹介するつもりなのだろうか。
「おい、そんなとこに突っ立ってんな。幽霊かと思ったわ」
< 48 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop