お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 あ、そっか。
 そりゃあ、長期出張の帰りだったら、色んな用事が立て込んでいるだろう。
 久々の高臣さんのからの返信に、ほっとしつつも、少し寂しい気持ちになった。
 寂しい気持ちがあるということは、きっと、今日久々に一緒にご飯を食べられるのを楽しみにしていた自分がいたのだろう。
 そして、私と永亮のツーショット写真など、高臣さんにとって動揺の要素にはまったくならないということ。
 私は、いったい彼にこれ以上何を求めているのだろうか。
 もっと人間らしいコミュニケーションがとりたい?
 それとも……、夫婦らしくなりたい?
 後者の気持ちを抱いたら、この関係は終わってしまうというのに。
 まさか、永亮に告白されて、高臣さんに対する感情が普通とは違うことに少しずつ気づき始めてしまうなんて、私はバカだ。
 茫然と野菜売り場に立ち尽くしていた私だが、ぐずぐずしている自分が嫌になって、それをかき消すように目に入る食べ物をカゴに突っ込んでいった。
「食べて忘れる!」
 美味しいものを食べたら、もやもやした感情は軽減する。
 私の単純な性格は、そういう構造で出来ているのだ。
 私は大盛りの野菜炒めをひとりでバクバクと食べることを決めて、カートを走らせる。
 すぐに会計を終わらせ、余計なことを考えないうちに食品をエコバッグに詰め込んだ。
 ……しかし、スーパーから出ようとしたそのとき、スマホが再び震えて、私は高臣さんからの電話かと思い表示も見ずに瞬時に出てしまった。
「はい、もしも――」
 『凛子。お前あからさまにメッセージ無視してんじゃねぇよ』
「…………」
 どうして表示も見ずに出てしまったのだろう。
 スーパーから出て、私は歩きながら永亮と気まずい会話を続ける。
 こんなときでも、一瞬視界に高臣さんの百貨店が目に入って、今どこで飲んでいるんだろうなんて気になってしまった。
「永亮、あの、この前の告白のことなんだけど」
 私は改めてきっぱりと断らねばと思い、重い口を開く。
 永亮は冗談を言ったりしない性格だから、この前のことは真剣に考えて返事をしなければと思っていた。
 しかし、私がそれ以上何かを言うより先に、永亮は意外な言葉を発した。
 『婚約した後に告白して、戸惑わせて、悪かった』
「え……」
 『悪かった。あのタイミングは、お前を困らせるだけだった』 
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