お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 好きでいて幸せ、だなんて。どうしてそんなに淡々と言えるのだろう。
 永亮がこんなに熱いセリフを言ってくる人間だなんて、一ミリも知らなかった。
 さすがに気恥ずかしくなって、一瞬カッと顔が熱くなる。
 動揺していることを悟られないように黙っていると、永亮が声のトーンを一段階低くして一言宣告する。
 『だけど……、お前が泣かされるようなことがあったら、全力で奪いに行くからな』
「え……?」
 『じゃあな。また店に顔だしに来いよ』
 そう言い残して、永亮はブツッと電話を切ってしまった。
 話しながらバス停にたどり着いた私は、ホーム画面に戻ったスマホを茫然と見つめている。
 泣かされるようなことに……なんて、どうしてそんな不吉なことを言うんだろう。
 すっかり永亮の言葉に色々と取り乱してしまった私だけれど、きっちり自分の気持ちを伝えられたことはよかった。
 解決したのかどうかは、微妙なところだけれど。
 永亮の予想外な発言が多く、ドッと気持ちが疲れてしまった。
 片手に持っていた野菜たちが、不思議と急に重く感じる。
 はやく家に帰りたいと思ったとき、タイミングよくバスが到着して、私はいつも通りバスに乗り込む。
 席に座って、ふとなんとなく窓から会社の方を見ると――、私は偶然にも信じられない光景を目の当たりにした。
「え……」
 ――中央通り沿いで、女性に抱きしめられている高臣さんの姿を、見てしまったのだ。
 頭の中が真っ白になっているうちに、バスは発進し、銀座の街を通り過ぎて行った。
 永亮の「泣かされるようなことがあったら」という言葉が、やけに頭の中に強く残っていた。
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