お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~

戸惑いの夜、そして

▼戸惑いの夜、そして side高臣&凛子
 
 出張を終えた俺はとにかく、早く家に帰りたかった。
 空港からすぐにマンションに直行する予定だったが、どうしても会社に取りに帰らねばならないものがあり、立ち寄ったのが悪かった。
「代表! 出張お疲れ様でした!」
「……嫌な予感がするな。そんなに歓迎されると」
 咲菜が、待ってましたと言わんばかりに気持ち悪い笑顔で俺を迎え入れる。
 荷物を取ったらすぐに出る予定だった俺は、咲菜のことを見て見ぬふりをしてスルーしようとしたが、中々離れてくれない。
「従弟の和夫(カズオ)さんの入籍祝いで、今日はお食事会がありますが」
「簡潔に言え。その食事会は出張で断ったはずだ」
「本日代表が帰られることを風の噂で知ったようで……ぜひお会いしたいと。婚約した話を直接聞きたいとのことで」
「なぜいちいち説明しなければならない」
 苛立った様子で答えたが、咲菜は全くひるまないどころか、俺と同じ顔で淡々と説明を述べる。
「今日来なければ、兄さんの家まで挨拶に行くと言っています」
「……なんだと?」
「その際は、私も同行させると。そんなのまっぴらごめんです。和夫の自慢話はいつも聞くに堪えないですから。のちのち面倒に巻き込まれたくなければ、顔だけでも出してください」
「お前今、サラッと呼び捨てしたな……」
「ずっと兄さんと競ってきたのに、和夫は何ひとつ勝てていないんですから。結婚くらい祝ってあげたらどうですか」
 和夫のことは無視していればそれでいい。あいつは操りやすいし、関わらなければ無害だ。
 しかし、和夫の入籍祝いということは、もうひとつ厄介な問題がある。
「もちろん、妹の百合さんもいるでしょう」
「面倒だな……」
「婚約者がいると言ったら、さすがに諦めるんじゃないですか。むしろいい機会なのでは」
 咲菜は完全に他人事だと思って、俺を食事会に向かわせるためのこじつけをしてくる。
 あえてこのことはメッセージで連絡せずに、会社に戻った俺に直撃して強引に連れ出そうとしたのだろう。
 ……"百合"とは、和夫の妹のことで、昔から変に懐かれていて、大学を卒業した今でも会うたびに求婚されている。
 冗談でも冗談でなくとも、べたべたと触ってくるので質(タチ)が悪い。
 出張帰りに、あのテンションで来られたらと想像するだけでさらに疲れてくる。
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