お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
「ねぇ、その婚約者、ただの和菓子屋の娘なんでしょ? 容姿も大したことないし失礼な女だったって、お母さんが言ってた! なにか弱みでも握られて、脅されてるんじゃないの?」
 俺の言葉を遮って、百合はそんな言葉を言い放った。
 無だった感情のレバーが一気に上がり、俺は気づいたら力づくで彼女のことを引きはがしていた。
 彼女は突然のことに戸惑った表情を見せて、俺の顔を見上げる。
 そんな百合に、俺は低い声で言い放った。
「この婚約は、俺から熱望した婚約だ」
「え……」
「それ以上バカな発言をするな。許せる気がしない」
「ご、ごごめんなさい……」
 俺が本気で怒った様子を初めて見た百合は、顔を真っ青にしてすぐに謝った。
 その声はとてもか細く、気が動転していることが容易に分かる。
 俺はすっかり怯え切った彼女に目もくれず、タクシーを呼び止めて、すぐに乗車した。
 ドアが閉まる直前、百合が「本当にごめんね!」と叫んでいたが、俺はすべてを完全にシャットアウトして、マンションへと向かった。
 
 〇
 
 side凛子
 
 高臣さんが女性に抱き着かれていた映像をかき消すように、私はキャベツをざく切りしていた。
「あれは……いったい……」
 ザクッ、ザクッ、と豪快な音を立てて、動揺したまま私は目の前にある野菜をただ切っていく。
 手元はしっかり見ているが、心ここにあらずだったので、気づいたらとんでもない量のキャベツがボールの中に積みあがっていた。
 気にせずフライパンに油を引いて火をつけ、お肉をぶち込み、野菜は手で鷲摑みをして投入していく。
 野菜のかさが減るまで随分苦労しそうだが、私は無心のまま菜箸で具材をかき混ぜ続ける。
 
 ――こんなことで動揺する資格はない。分かっている。
 それなのに、高臣さんがいつも優しすぎるから、勘違いをしてしまったのだ。
 そういえば、高臣さんに好きな人がいるかとか、彼女がいるかとか、確認したことはなかった。
 政略結婚なのだから、それとこれとは別の考えだったとしても、おかしくはない。
 もしかしたら、「政略結婚するから」と彼女に別れを告げて、泣きつかれているところだったのかもしれない……。
「ぜ、全然ありえるな……」
 事前に確認しておけば、こんなに傷つかないでも済んだのだろうか。
 ……認めるしかない。私は今とても、傷ついていしまっている。
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