お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 だって、思い返すほどに、高臣さんの優しい表情が胸を震わせるから。
 
 うちの和菓子を守りたいと真剣に言ってくれたとき。
 和菓子とワインの相性の良さを知って、目を輝かせていたとき。
 私の料理が食べたいと、わざわざ社員食堂に来てくれたとき。
 ドレスを来た私をまっすぐ見つめて、綺麗だとほめてくれたとき。
 パーティーの帰りに、『君が欲しい』と真剣に言ってくれたとき。
 
 何を思い返しても、私は高臣さんの言葉全部が嬉しくて、ときめいてしまっていたのだ。
 どんなにスルーしようと努めたり、気持ちを押し殺そうとしても。
 高臣さんの固い表情が優しくなっていく一瞬が……、愛しく思えてしまったのだ。
 もしかしたら、認めてはいけないとブレーキをかけているだけで、私は彼のことを好きになりかけているのだろうか。
「嘘……」
 ――そんなことを思い立ったとき、ドアがすごい勢いでガチャリと開く音がした。
 高臣さんが、帰ってきた……?
 ドキリと心臓が跳ねて、私はなぜか息を殺したままキッチンに立っている。
 まさか、自分の思いを自覚したこの瞬間に、高臣さんが帰ってきてしまうなんて、間が悪すぎる。
 それに、女性と一緒にいた映像が頭にこびりついて離れない。
「凛子、もう寝てるのか?」
 リビングにいる高臣さんの問いかけに、私は身動きひとつせずにじっとしている。
 ……お願い、待って。
 今は待って、高臣さん。お願いだから、私を見つけないで。
 好きだと自覚した瞬間、彼の声を聞けただけでこんなにも嬉しくなってしまうなんて……。
「凛子、ここにいたのか」
「あ………、お帰りなさい」
 明かりがついていたキッチンにいることなど、すぐバレるに決まっていた。
 私は、熱くなった顔がバレないように俯いて、フライパンの具材を炒めているふりをした。
 もうとっくに火が通って、完成しているというのに。コンロの火もさっき消してしまった。
 高臣さんと久々に会えたことがとても嬉しいのに、女性に抱き締められていた映像が頭をかすめて、感情がぐちゃぐちゃになっている。
 意識してドキドキしてしまう気持ちと、醜い嫉妬が混ざり合って……。
「どうした? 凛子、具合でも悪いのか」
 そんなことも知らずに、高臣さんがかがんで、私の顔をのぞきこんできた。
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