お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 待って。私今、人生で一番、どんな顔をしたらいいのか分からない――。
「え……」
「あっ……、ま、待ってくださ……、あれ……?」
 高臣さんと目が合った瞬間、さらに顔がカァーッと熱くなって、なぜだかじわっと涙がにじみ出てきた。
 自分でもどんな感情で涙が出ようとしているのか分からない。
 なにもかもキャパシティーを越えてしまって、防衛本能的なものが働いて、一旦涙で混乱を外に押し流そうとしているのだろうか。
 高臣さんはそんな私の顔を見て、目を丸くしたまま固まっている。
 私は仕事で疲れている高臣さんに、面倒だと思われたくなくて、すぐに涙を隠そうとした。
 けれど、それは一瞬たりとも許されなかった。
「何があった。凛子」
「え……」
 顔を両手で優しく包み込まれ、本当に心配そうな顔で聞いてくる高臣さん。
 久々に見た美しすぎる顔立ちに、そのまま吸い込まれそうになってしまう。
 自分の中で渦巻いている感情を言葉にすることができずに固まっていると、高臣さんはもう一度優しく問いかける。
「頼むから、何があったのか話してほしい」
「違くて、あの……。あっ、玉ねぎ切ってたから、目が痛くなっちゃって!」
「凛子」
 苦しい言い訳で逃れようとしたが、高臣さんはそんな嘘はお見通しで。
 きれいなアーモンド形の瞳が苦しそうに細められるのを見ると、私も胸が千切れそうになってしまった。
 そして、何かがプツンと切れて、おさえていたものが爆発した。
「……なんでそんなに、優しくしてくれるんですか? 政略結婚相手ごときに」
「え……?」
「どうしてそんな、思わせぶりなことをするんですか……そういうの、困るんです……」
「凛子、何を今さらな話を……」
「も、もしかしたら愛されてるって、勘違いしちゃいそうになるからっ……」
 最後の方は、恥ずかしさで声が震えてしまった。
 しかし、そこまで言い切ったその直後、ふわっと体が宙に浮いて、軽々とお姫様抱っこをされてしまった私は、悲鳴を上げた。
「きゃっ……! た、高臣さん!」
「信じられないな。俺の気持ちは一ミリも伝わっていなかったということか」
「お、下ろしてくださいっ……、どうしたんですか」
 なんで高臣さんは少し怒った様子なのか。
 私は理解できないまま、まだ一度も入ったことのない、高臣さんの薄暗い寝室に運ばれる。
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