お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 安心できるようで安心できない情報に、私は混乱した。
 どちらにせよ、抱き着いていた女性は高臣さんに気があるということは事実なのか……。
 高臣さんがまったく相手にしていないと言い切ったが、なんだかもやもやは晴れない。
「あのとき抱き着かれたのは、突然で避けられなかったんだ。不快な思いをさせてすまない」
「い、いえ……」
 つい、納得いっていない顔のまま返事をしてしまった。
 高臣さんはそんな私を見て、何かを決意したように、一言低い声で言い放つ。
「もう、政略結婚は止めだ」
「え……?」
「本当はもっと、はやく話すつもりだった。……でも、急な出張で話が遅れた」
 政略結婚は止め……?
 もしかして私、高臣さんに嫌われてしまった?
 ドクンドクンと、不安で心臓の拍動が速くなり、再び目頭が熱くなる。
 何も言えないまま高臣さんの顔を見つめていると、彼はスーツのうしろポケットから、何かを取り出して私の目の前にかざした。
 それは、紺色の高級そうな小さな箱。その箱には、私でも知っているようなハイブランドのロゴマークが印字されていた。
「今日はこれを取りに、一度会社に戻ったんだ。家に置いていたら凛子に渡す前にバレてしまうと思って、会社に保管していた。本当は出張前に渡すつもりだった」
「こ、これって……」
 驚いている私の背中にそっと手をまわして、高臣さんは私をベッドに座らせた。
 真剣な瞳の高臣さんは、その小さな箱を両手で開けて、私にそっと差し出す。
 間接照明の光でも分かるくらい、美しい輝きを放つダイヤの指輪が、その箱の中に静かに佇んでいた。
「婚約指輪すら、まだ渡せてなかった」
「え……」
「凛子。政略結婚という名目でなく、俺と結婚してほしい」
「高臣さ……」
「……凛子が好きだ」
 そう言って、高臣さんは私の指にダイヤの指輪をそっとはめた。
 私は、高臣さんがくれる言葉をまったく処理できていなくて、ただ茫然とその一連を見守ってしまった。
 ……だって、ついさっきまで、婚約解消を言い渡される可能性すら考えていた。
 その少し前は、高臣さんのことが好きかもしれないと自覚してしまい、動揺していた。
 その前は、高臣さんが従妹に抱き締められている場面を見て不安な気持ちになっていた。
 色んなことが一気に起こりすぎて、頭が追いつかないよ。
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