お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
「それだけの話ではない」
「え……? どういうこと、お父さん」
「凛子に、三津橋君の息子からお見合いの申し出があった。家族になれば、本当の意味で責任を取れると……」
「は……?」
 衝撃的な言葉を聞いて、私はもうひとつつまみぐいしようとしていた里芋を思わず取り落とした。
 私の横にいる永亮も、予想外過ぎる展開に目を丸くして固まっている。言葉も出ないといった様子だ。
 私も同じだ。耳を疑うような話だが、父はつまらない冗談を言うような人間ではない。
「三津橋くんの息子……高臣くんは、凛子の職場の百貨店の代表だ」
「う、嘘でしょ……。無理無理、無理。そんな格式高い人となんで私が……」
「玄さん、それは政略結婚の申し出ということですか? たしかに今までどこにも外部に出店してこなかった高梨園の商品が、初出店されるとなればあちらにもそこそこの話題提供ができるはずです」
 せ、政略……⁉
 永亮の口から飛び出した漫画みたいなワードに、私は今度はお茶を吹き出しそうになった。
 父は腕を組みながらずっと渋い顔をしていて、「政略結婚」というワードをまったく否定しない。
 なんとも言えない沈黙を破ったのは……母だった。
「結婚相手も、結婚するもしないも、全部凛子が決めることです。何も迷うことなどありません。お断りしましょう」
「お、お母さん……」
「自分の人生は自分で決める、それがうちの家訓じゃないですか。お父さん」
 母の必死な言葉に、父は「そうだな」と首を縦に振った。
 なぜか永亮も隣で、少しホッとしたような顔をしている。
「凛子。さっきの話は聞かなかったことにしてくれ。断っておくから」
「き、聞かなかったことになんてできるわけないけど、とりあえず分かった……」
 父と母の会話に安堵しつつも、なぜか心の片隅で「これでいいのだろうか?」と思っている自分がいた。
 たしかに私が家族になってしまえば、外部に任せたくない父も、百貨店への出店を考えてくれるはず……。代表が夫だったら、いきなり契約を切ったりということもないだろう。
 でも、そんな愛のない結婚、自分にできる気がしないし……。
「お、管理会社から電話だ」
 悶々としていると、この建物を管理している会社からの電話で、父のスマホが震えた。
 なんてタイミングなんだ。
 管理会社から直接電話がかかってくるなんて……嫌な予感しかしない。
< 7 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop