お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 どう反応が返ってくるのか内心ドキドキしていたが、予想以上に凛子が喜んでくれてよかった。
 仕事の延長ではあるが、凛子と初めての旅行ができる。
「俺は日中仕事をしているが、好きに観光するといい」
「ありがとうございます……!」
 凛子の満面の笑みに、心ごと簡単に癒されてしまう。
 俺は、さっき凛子が何を言いかけたのか問いただすつもりでいたが、和菓子のことで頭がいっぱいの今の彼女に聞くのは野暮な気がして、止めた。
 凛子が笑顔でいることが、自分の幸せにこんなにも直結してしまうなんて。
 もし咲菜が今この場にいたら、幸せボケしているとからかわれていただろう。
 それでもいい。彼女が隣で、笑ってくれるなら。
 
 〇
 
 一カ月後のその日、京都は晴天で、立っているだけでも汗をかくほどの気温だった。
 うだるような暑さに俺はうんざりしていたが、隣にいる凛子はとても嬉しそうだ。
 ポニーテールにした凛子の髪の毛が揺れる度に、白いうなじがあらわになっている。
 それすら誰にも見せたくないと思う自分は、もう十分異常なのだろう。
「高臣さんっ、浴衣姿の方がたくさん……! きれいですね」
「花火大会があるのかもしれないな」
「なるほど。それでこの人込み……」
 きょろきょろと楽しそうに辺りを見回す凛子が愛おしい。
 しばらくそんな彼女を微笑ましく見つめていたが、ふと、何やら凛子が手に持っているのが気になり、ひょいとそれを覗き込んでみる。
 その紙には、マップ上に点々と和菓子のイラストが描かれていた。
「あ、これ、行きたい和菓子のお店を手書きでまとめたんです。イラストは下手なんですけど……あはは」
「凛子は本当に和菓子が好きなんだな」
「好きというか、頭の中に常にあるというか……。新店舗の準備もありますし」
 幼いころからずっと和菓子に触れて育ってきたんだろう。
 今回の旅行で思い切り勉強をしようとしている凛子を、素直に応援したいと思った。
 そのためには、高梨園をこの手で守り抜かねば。
 十月のリニューアルオープンに合わせて、高梨園二号店が銀座で開くこととなっている。
 凛子もその日に合わせて今の仕事を辞め、二号店の店員として働く予定だ。
 最初の一年だけ、玄さんの一番弟子と一緒にお店を管理するようだが、のちに凛子が店長となって引き継ぐ予定らしい。
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