俺様社長と溺愛婚前同居!?
いつもの無表情と返答なし。
鴻上さんは、眉間に皺を寄せて難しい表情を浮かべて、しばらくの沈黙が続いた。
「そんなに気にしてもらわなくて結構だが」
「いえいえっ。私には、皆さんのお昼ご飯の準備を任されています。最善を尽くすのが私の務めです」
このお弁当箱を用意したのも、お昼ご飯のメニューを考えるのも、全ては私に任された仕事なのだ。だから精いっぱいできる限りのことをするのが当然だ。
それでなくても、破格の報酬をいただいているのだから。
「なので、少しでも食べてもらえたら嬉しいです」
私のご飯を食べて、少しでも元気になってもらいたい。
美味しいとほっと一息をついて、お昼からの仕事を頑張ってもらえたら、私の存在の意味を感じられる。
そういう気持ちでいつも仕事をしているだけだ。
目の前にいる鴻上さんに、にこっと微笑みかけるけれど、彼は表情ひとつ変えずに黙っていた。そして胸ポケットに入っていたスマホが鳴ったようで、ジャケットの内側に手を入れる。
「じゃあ、俺はこれで」
「ありがとうございました」
踵を返して玄関からすぐに出て行く。あとを追いかけると、家の前に停車していた高級車に乗り込み、すぐに発進していった。
その車はすぐに見えなくなり、今の出来事が嘘のように静けさを取り戻す。