好きになってくれない人へ。
人混みの中をかき分け、ようやく春輝の姿が見えたと思ったら、私がいない間に何人かの女の人に絡まれていた。
見慣れていたはずの姿。
春輝が女の人に言い寄られているのなんて何度も見た事がある。
あるはずなんだけどな。


「あ、先輩!」


ようやく春輝は私に気づき、女の人達の誘いを断り私のもとに来た。


「遅かったから心配しましたよ」
「ごめん」
「まぁ、でも。先輩が迷子にならなくて安心しました」


春輝は安心したように私に笑いかけた。
そんな春輝を私は見る事ができない。


「これ、サービスしてもらったの。だからあげる」
「えっ、いいんですか!」


あぁ、なるほど。
そういう事か。
私が抱いていた“怖い”という感情の正体が分かった。
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