【完】爽斗くんのいじわるなところ。
「……あのこれ、リップ塗ったんだけど、もしかしてピエロみたいになってる?」


「ピエロみたいって莉愛が? お前ピエロに謝れよ」



……! 


爽斗くんもしかして
自分が言ったこと覚えてない……!?


あたし、結構気にしてたのに……と、ショックを受けていたら、



「何しけた顔してんの」と肘で小突かれて、


「こっち向いて」と言われるがままに爽斗くんを見上げた。



茶色の澄んだ瞳と視線が絡んだ瞬間、一気に体温が上がった気がする。



「俺、このピンクはそんなに嫌いじゃない」


「……え?」



空耳くらい小さな声が、確かに聞こえた。


ドキドキと鼓動がはやくなる。


本当……?


「……この色買ってよかったぁー……」


心の底から嬉しい……。
ほっと息を吐いて、自然と目がほそまっていく。
つい、はにかんでしまうと。



「何一人で盛り上がってんの」



鼻で笑う、冷めた声が聞こえて現実に引き戻された。



「だって」


「喜ぶハードル低すぎて哀れだねー」


「……う。でも十分うれしかったんだもん……」


どんなにちっぽけなことでも、好きな人に”嫌いじゃない”って言ってもらえたら嬉しいんだよ。


あたしは、そうなの。
爽斗くんが特別だから。


「この気持ち、きっと爽斗くんにはわからないと思うけど……」


「うん全然わかんない」


あまりの片思いにいじけていたら。



「あまりに哀れだから喜んでいいレベルの言葉おしえてやろっか?」


「え?」


「例えば、例①」



きょとんとしたら問答無用に頭をがしっと掴まれて、
爽斗くんの方に引き寄せられた視界が揺らぐ。


遅れて、耳もとに落ちてきた低い声。



「俺のために自分の格好考えたとか……めちゃくちゃかわいいと思う」



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