【完】爽斗くんのいじわるなところ。
とはいっても自分から爽斗くんの部屋に行く勇気は出なくて、
とにかく断られることに耐性をつけるイメトレをしていた。


我ながら最高にネガティブ。


いや、ネガティブどころじゃない。


トラウマ級のお祭り恐怖が、無意識にあたしにサインペンを握らせていた。


7月のカレンダーの最終日。


夏祭りと書いた文字の上に大きくバツ印をつけていて、はっとして苦笑した。


……やっぱり、無理。


たぶん断られるだけでも、じゅうぶんへこむもん。


ため息をついたとき


「莉愛、」


と、ベランダの窓があいた。


どきりと心臓が跳ねる。


「……あ、爽斗くん!」


わけもなくサインペンを後ろ手に隠して、慌ててしまった。



「今なに隠した?」


怪訝そうに眉根を寄せて、爽斗くんはあたしの手を問答無用にひっつかんだ。


「ひゃ、」


掲げられたサインペンはまだ蓋があいたままで、書いていたのはまるわかり。
そしてあたしの前にはカレンダー。



「ペン……?」



そのまま、爽斗くんの視線がカレンダーに吸い寄せられるように向いて、
夏祭りにバツがつけられた7月31日をみている……。



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