【完】爽斗くんのいじわるなところ。
「莉愛」


呼び止められて、振り向くと、
眉間に皺を寄せて
だけど怒ってるんじゃなくて、どこか悲しそうな爽斗くんがそこにいた。


……な、に……?
どうしたの……?


「……優心と祭り、よかったな」


「え……。あ、うん……」


なに、その、顔……。


あたしがよく胸の奥に沸くあの気持ちを抑えるときにするのと、同じ表情してる。


白い歯が軽く噛んでいた唇が、薄く開く。



「また浴衣でも着てくの?」


眉根を寄せた彼に、小さく首を横に振って返すと。



「……ま、おめでとー」


心のこもってない声が、無性にせつなく聞こえた。



「あり、がとう……」



おめでとうと言われたから、ありがとうと返そうって、なんとか声になったけど。



爽斗くんに浮かんでた笑顔がゆっくりと消えていく。


このまま泣いてしまうんじゃないかって、


そんなの爽斗くんなら絶対あり得ないのに、そんなこと思ってしまって。


見ちゃいけない気がしたんだ。



「じゃあ、またね」


だからあたしはそう言って、玄関に向かって歩き始めたのに。




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