【完】爽斗くんのいじわるなところ。
真っ青なあたしは、とにかく早足の彼に手を引かれるまま歩いて、歩いて……。
「待っ……、速い」
「遅い」
といいつつ、あの爽斗くんが足を緩めてしまうほど、あたしは今ゼーハーしている。
少し前を行く爽斗くんの黒い髪が風に揺れる。
引きずられるように歩きながら、汗でじっとりした額を拭って、階段を上りきって。
たどり着いた広い敷地は、公園のようだけど、誰もいない。
ここって、土手のそばのハイキングコースの上の方にある、みはらし台だよね。初めて来た。
「ここから見る花火も怖いなら病院行きなよ」
「え……?」
トンと背中を押されて、
視界いっぱい、何にも遮られることなく、大きな花火が上がり、
少し遅れてパーン……と音が届いた。
マンションから見る時みたいに、ビルに遮られることもなくよく見えるし、それにさっきみたいに怖くもない。
「わ……きれい……」
「やっと落ち着いてみれそうですねー」
爽斗くんの嫌味っぽい口調にあたしは90度でお礼を言う。
「わざわざ場所変えてまで……本当にありがとう」
「べつに」
ふわっと夏の風が吹き渡った。
「……莉愛ってほんと世話焼けるね」
長めの前髪から覗くアーモンドアイは
優しく、細まってみえた。
とくんと、心臓が跳ねて
絡んだ視線にまた更に鼓動が速くなっていく。
「……っ」
ぱっと視線をそらして、花火に目をむけると
視界いっぱいにカラフルな花火が5つ一気に打ちあがった。
こんなの初めて見た。