【完】爽斗くんのいじわるなところ。
「爽斗くんが北風って言ったのは……劇の練習とか、普段の掃除とか、さぼったりする人に爽斗くんがビシッと言ったら、みんなやらなきゃって素直に思えたし……。爽斗くん自身に強い力があるみたいな感じがして」
そういうところ、すごく羨ましかったんだ。
だってあたしなんかがいくら「練習しようよ」ってみんなを誘ったって、雑音みたいに消えるだけだったのに、
その後に爽斗くんがビシッと一言いえば、みんな従ってくれて……、って、あれ?
いつも……、爽斗くんがビシッと言ったのは……あたしが雑音みたいな注意をした後だった……?
もしかして……あたしの声を代弁してくれていた……?
ハッとして顔を上げる。
斜め前方には、ただ前を歩く気だるげな背中。
あの頃のいじめっ子な爽斗くんが、そんなことするわけないか。
いや……、もし今の彼なら、困っている人の代弁をするかもしれないって思える。
だったら過去の爽斗くんだって、そうしてもおかしくはない。
……とくん、と心臓が鳴り、急いていく。
そうだ、なんで今まで気づかなかったんだろう。
”いじめっこの爽斗くん”って先入観に溺れて、彼の優しさにひとつも気づかず、小学生のころのあたしは、怯えて、泣いて……彼から逃げて。
『……お前ムカつくんだよ、莉愛』
そう怒らせても仕方ないような態度をとっていたんじゃないの……?