【完】爽斗くんのいじわるなところ。
「……あの、助けてくれて、ありがとう……」
こういうと、きっと怒られる。
わかってる、だから声まで震えてる。
「助けてねーよ」
苛立った声が帰ってきて、癖のように「ごめん」と俯きかけた。
でも、ふとそれをやめてみる。
もしかして、この苛立った声って、本当は。
コンタクトをしたはっきりとした視界に、爽斗くんの後ろ姿を映して。
……耳が、赤い。
もしかして……いつも怒ってるのは、照れ隠しなの……?
ドキドキと心拍数が上がっていく。
「でも、ありがとう」
ごめんというのをやめて、お礼を繰り返したら、無視されちゃった。
でも、諦めない。
「……いつも、ありがとう」
きっと、そのまま聞こえないふりをして歩いて行ってしまうんだと思ってた。
でも爽斗くんは踵を返して、その綺麗な顔を背けながらこっちに歩いてくる。
「……、」
こちらに腕が伸びてきて、ごく、と息をのんだ。
――ムニ。
あたしの頬をつまんだ爽斗くん。
「うるさい。早く帰る支度してきて。一緒に帰んだろ?」
聞かれていても、あたしに拒否権はない。
絶対服従の視線は、
どこか、照れ臭そうで……どきどきした。