【完】爽斗くんのいじわるなところ。
「……ップ」
水を打ったように静まり返った教室で、爽斗くんが噴き出してしまった。
「……女の武器ってすげー」
そう堪えきれなかった、みたいに笑っているせいだろうか。
教室の空気もなんだか穏やかになって、みんなぽつぽつとそれぞれの会話を再開したみたい……。
きゅうにほっとして、ため息が零れてしまう。
「助けてくれて、ありがとう……」
「逆じゃん。はじめて莉愛に助けて貰ってなんか悔しんだけど」
そんなこといっているけど、
小学生のころ喧嘩ばかりして、しだいに頂点に上り詰めたおそるべき元ガキ大将の彼が、さっきの不良に負ける気は正直しなかった。
でも本当に爽斗くんは変わったんだ。
暴力をふるう気なんてきっとなかったんだろうな。
……かっこよかった……。
「……さっきの、本当にありがとう」
伝えると、ふいっと顔を背けて
「なにそれ」としらをきる彼。
そして爽斗くんは、たった今空けてしまった席にしれっと腰を下ろした。
「え?」
「……さっきの客よりは俺のがマシだろ。Aセットください」
「……! は、はい。かしこまりました」
あたしが空けてしまったテーブルを、埋めてくれたんじゃないかって、
そう思うのは、少しずうずうしすぎるかもしれないけど……。
……それでもやっぱり、彼が座ってくれたこと、泣きそうなほど嬉しかった。