【完】爽斗くんのいじわるなところ。
中庭に生えた大きな木のちょうど反対側が、さっき爽斗くんが寝ていたベンチ。


木の幹が邪魔をしているけど、足元だけがここから見える。


ベンチの端から降りているあの足元の雰囲気とスニーカーを見たかんじ、たぶん、あれは爽斗くん。


……まだ寝てたんだ。


苔の生えた土の上をそっと歩いて、ベンチの方へ向かう。


彼を隠す木を横切ろうとしたその時。


「……――爽斗くん」


声が聞こえて、ぴたりと足を止めた。


……女の子の声だ。


誰かと話してるの?



そうっとバレないように、木の陰から覗き込んだ。


あれは……蘭子さんだ。



蘭子さんは、爽斗くんの肩をそっと揺さぶっていて。



「爽斗くん、起きないと風邪ひいちゃうよー?」


しきりに声をかけている。



彼女の遠慮なしの明るい声のせいか、


ふたりの距離感が近く感じてしまって、ずきりと胸がうずく。



……あたしが来る必要なんてなかったな。


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