【完】爽斗くんのいじわるなところ。
そう思いながら引き返そうとしたその時。
「……――」
爽斗くんが起きたのか、なにかぼそっとつぶやいて
蘭子さんの方へ、迷いなく手を伸ばした。
彼の手は、蘭子さんの後ろ頭に触れて、それから……。
――慣れたように、爽斗くんは自分の方へと、蘭子さんを引き寄せていく。
スローモーションみたいに見える光景。
頭の中が混乱していく。
……待って、なにしてるの?
これって……蘭子さんにキスしようとしてる……!?
やだよ……、なんで。
「……さっ、爽斗くん!!」
気付けばあたしは、木の陰から飛び出して彼の名前を呼んでしまっていた。
がばっと起き上がった彼は、あたしを見るなり、飛び上がるように蘭子さんから離れた。
「なんで……、莉愛」
どうして、狼狽えるの。
まるで、ドラマなんかの彼女に浮気を見られた男性みたいな、そんな焦り方して……。
……ああ、そっか。
爽斗くんは、あたしだけじゃなかったんだ。誰とでもキスをするんだ。
たとえ”嫌がらせ”でも、特別なキスだと思ってた。
あたしだけだと思ってた。
……違ったんだ。
「お、お前なんで……いつからそこにいた?」
らしくもない動揺、見せないで。
悲しくなるから。