【完】爽斗くんのいじわるなところ。
たまらなくなったあたしは「それだけです!!!」と叫んで、終わらせようと思ったのに。


「おい、根暗。俯いたまま聞いてなよ」


そう言われたあたしは、彼に言われた通り、スニーカーを見つめながら耳を傾ける。


「俺も好きな人、いんのね」


「……あ、うん」



その、言いづらそうな口調。


振られる流れだって、あたしでもわかる。



「そいつには、俺のことだけ考えててほしいし。だから泣かせたくなるし。いじめたくなって……」


それは、

やっぱり蘭子さんのこと……?



「……」


それから、爽斗くんの言葉がとまって、
深呼吸するみたいな音が聞こえた。



「……つーかさ、ほんとだとしたら、なんでお前、俺のこと好きなの?」


「……優しい、から」


「だから俺、優しくないじゃん」


「それは、爽斗くんが決めることじゃない。受け取った人がきめること……」


「なんだそれ……」



それきり、また爽斗くんは、言葉を止めてしまった。


次に聞こえてきたのはためいき。


あたしにとって今は、振られる準備に徹する時間。


もし、あの日。


蘭子さんとキスしたのが、あたしのと違って遊びじゃなかったとすれば、


……蘭子さんが爽斗くんの特別だったんだろう。


あたしは遊びって言われたけど、あれはきっと優しい爽斗くんの慈悲の表現だ。



初めてのキス以外は、あたしの方がキスを待っていた。


『今キスされると思った?』なんて聞かれてしまったこともあったっけ。


あたしはそれくらいわかりやすく、キスを待っていたんだ。


"キスして欲しそうに待たれているから、あたしにキスした。"


それなら、すごく彼らしくて納得できる。


「おい、莉愛。聞いてる?」


「あ、うん」


「……今からできるだけ優しい言葉風に、言うから。一ミリも聞き逃すなよ」



「うん、ちゃんと聞いてます」


振られて当然なんだから、平気。

そう言い聞かせても、涙が滲んでしまう。


いや、違う。


振られても、告白できて、

自分の言葉で想いを伝えられて、よかった。



そう思うのが、上手なネガティブかな……。


……ねぇ、爽斗くん。


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