【完】爽斗くんのいじわるなところ。




ベランダの仕切り板のむこうに、今、爽斗くんがいる。


聞くところによると、蘭子さんとのキスは、なんとあたしと間違えたっていうびっくりな事実で……。


「キスはあたしだけ……なんだ」


「当たり前。俺は好きな子にしか興味ないの」


「す、す、好きな子……」



しゅううっと顔が熱くなる。



「で? 俺の彼女になりたいんだよね?」


「う……うん。なりたいってば、どうして何回も聞くの?」


ベランダで新品の壁越しに、星空を見上げながらしている会話は、ほとんどこれだ。


「何回も言わせたいから」


何回も”聞きたい”じゃなくて”言わせたい”ってところが爽斗くんらしい……。



壁越しの声は、少し楽しそう。



「……なんか、声だけじゃ足んないね」


「え?」


「莉愛、ちょっとそこ、下がってて」


数歩後ろへさがりながら、嫌な予感がした。


「ちょ、爽斗く……!」


次の瞬間

――バリーンッ!!

と、夜空に響く大きな音を立てて、


彼が勢いよく蹴破ったベランダの仕切り板がバラバラと飛散する。



「……いい感じ」




ぽっかりと空いた穴の向こうで、彼は満足そうに笑った。



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