極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました
『私も……1つだけ聞きたいことがあるんです』
『ん?何?』
こんな事を聞いても意味がない。一生耳にする事は出来ないのだから。そう思いながらも、畔は彼に質問してみることにした。
『椿生が私の名前を呼ぶ時の音は……どんな音ですか?』
『え…』
『椿生の声ってどんな感じなのかなって………聞いてみたいなって思って。もし、1つだけ聞けるようになれるなら、椿生が私を呼ぶ声がいいなーっていつも考えているんです』
こんな事を言っても彼を困らせるだけだとわかっている。それなのに、つい聞いてしまった。
畔は逃げるようにシーツで体を隠しながらベットから起き上がった。が、椿生は畔の腕を取った。
畔が彼を見ると、椿生はとても真剣な表情をしていた。
『水が跳ねる音。君がノートに書いた、水が跳ねる音。きっとそれに近いと思う。君を呼ぶとき俺はいつも心が弾むから』
『本当ですか?!』
畔はノートの中身を思い出し、その音を頭で想像する。その音符に言葉を乗せ、頭の中で再生する。
(ほ・と・り………ほとり、ほとり………)
ポンポンっと跳ねるような音程。少し低めの音だっかが、それが彼の声なのだと想像出来た。
その瞬間、体の中がほわっと温かくなるのを感じた。
『いつもこんな風に私を呼んでくれてたのですね。嬉しいですっ!』
『いつでも君の名前を呼ぶよ、畔』
彼の言葉に合わせて、頭で音を再生する。
するの、彼の声に呼ばれているように感じられる。畔はくすぐったさと、今まで以上の幸福感を感じ、笑顔で頷いた。
自分の名前を好きな人に呼んで貰えることがこんなにも幸せなのか。畔はその感動を実感しながら、ある事を思った。
もし、自分が彼の名前を呼んだら、椿生は喜んでくれるのだろうか、と。
歌以外で言葉を発するのはまだ勇気がない。
けれど、椿生ならば声を喜んでくれるのではないか、自分の同じような気持ちになってくれるのではないか。そんな風に思うのだ。
(少しだけ、頑張ってみようかな………)
畔にそんな気持ちの変化が現れ始めた瞬間だった。