極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました
★☆★
「俺だって好きだよ」
言葉を呟いても、畔がこちらを見ていない限り、彼女に届くことはない。
そんな事はもうわかりきっている事だった。
けれど、言いたかった。
畔がいる空間で。
畔は幼い頃からの幼馴染み。
気づくと、叶汰の隣には畔が居た。
純粋で優しくて、そして歌が大好きな女の子だった畔。彼女の隣に居るのはとても心地よかった。
だが、畔がプロデビューした頃から、叶汰は畔との接し方がわからなくなってしまったのだ。
彼女を見るとイライラして、眉がつり上がり、口調も荒くなってしまった。
原因はわかっている。
幼馴染みである畔の隣という場所が、自分のものではなくなったからだ。
畔の隣は自分が居るべき場所だったはずた。いつも微笑みかけてくれ、他愛ない話をして穏やかに過ごす。そんな日々が少しずつなくなり、社会人になれば全くといっていいほど、畔との時間がとれなくなった。
そして、彼女は叶汰に守られなくても自分で生きていける。そんな強さも身に付けたのだ。
畔は自分を必要としていない。
それを突きつけられたのだ。
恋人になればよかったとも思う。
けれど、それはどこか違うような気がしていた。自分は幼馴染みで居たい、と思っていた。
いや、そう思いたかったのだろう。
告白して断られたら?
恋人になっても、最後に別れてしまったら?
そんなことになったら、今まで通りの関係ではいられないのではないか。
不安が頭の中にあったのだ。
それを実感したのは、畔に恋人が出来たと知った時だった。
「気づくの遅い……ってか、俺が意気地無しなんだよな」
叶汰は苦笑しながら、テーブルの上に置いた楽譜を見つめた。
畔と椿生を繋げた曲だ。
「俺はこの曲嫌いだな………」
そう呟いてから叶汰はソファに横になり、目を閉じた。
すると、何故か「青の音色」の曲が頭の中で流れてくる。叶汰は苦笑しながら、畔から貰ったCDを久しぶりに聞こう、と思った。
もちろん、曲は大嫌いな「青の音色」を。