極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました
「もしかして、hotoRiさんですか?」
「っっ」
その女の子が何を言ったのか。畔は口の動きでわかってしまい、思わずビクッと体を震わせた。
その反応が不味かったのだろう。
女の子達は歓声を上げて、「大ファンなんですっ!握手してください!」と、畔に手を差し出してきた。
畔はどうしていいのかわからず、オロオロとその場を後退りする。
が、その女の子の話し声を聞いて、周りもざわついているいるのがわかった。そして、好奇心の目でこちらを見ている人がゆっくりと近づいてきている。
(これ………少しまずいかも………)
そう思った時には、畔はお客さん達に囲まれてしまっていた。
声も出せない。そして、手話をしてしまえば、耳が聞こえないhotoRiだと確実にバレてしまう。
畔は何も言わずに頭をさげてながらマイクとスマホだけを胸に抱きしめて、その場をおさめようとした。
が、突然お客さん達が一斉に後ろを向いた。と思ったら、人をかき分けて誰かがこちらに向かってやってきていた。
誰か怒った人が来たのだろうか。
不安になってそちらを見つめる。
「海っ!行くぞ、走れっ!」
「っっ!!」
そこに現れた男性は大きく口を開けてそう言うと、畔の手をつかんで走り始めた。
畔は、彼に引っ張られながらも何とか走りその男の背中を見つめた。
目の前に居たのは、あの日病院であった彼だった。
畔の手を強く握り、時々心配そうに後ろを振り向き、大きく唇を動かして「大丈夫?」と声を掛けてくれる。畔は走りながらという事、そして驚きからコクコクと頷くしか出来なかった。
2人が走るその日は晴れ。
夜空には沢山の星が輝いていた。
きっと歌声が星まで届いたのだろう。
畔はそう思って、握られた手の温かく強い感触を噛み締めていた。