極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました
5話「静かな夜の会話」
5話「静かな夜の会話」
街中の雑踏に紛れながら、畔は数日前に会った男と走って逃げていた。
しばらくすると2人の呼吸も荒くなる。
それなのに、自然と楽しさが込み上げてきて、畔は笑ってしまった。そんな畔を見て男も「クククッ」と小さく声を出して笑った。
「あんな風に逃げるなんて、自分でもビックリだよ。って、ごめん…」
そう言って、男は畔の手を離した後、手話で話を掛けてくれる。
『勝手にあの場所から逃げてきちゃったけど…大丈夫だった?』
『また、助けていただきありがとうございました』
『なら、よかった。と、ここで立ち話をしていると見つかるかもしれないから、どこかお店に入ろう。いいかな?』
『…はい』
会いたかった人が目の前にいるのに、畔は上手く彼の顔を見れないままに頷いた。
『あ、その前に公園に置きっぱなしの機材を持ってこないとね。タクシーで近くに戻って、俺が取ってくるよ』
『何から何まですみません…』
『気にしないで。じゃあ、行こうか』
男はそう言うと近くに停まっていたタクシーを呼び、2人でまた公園に向かった。
こうやって、彼の隣に立って話すことが信じられなかった。夢心地というのは、こういう瞬間なんだろうなっと思った。