極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました
『私の勘違いかもしれないんですけど………。公園で私を呼んだとき、hotoRiではない名前で呼びませんでしたか?』
『気づいたんだ。すごい。あそこでHotoRiと呼んでしまえば、本物だとバレてしまうからわざと違う名前で呼んだんだ』
少し気になっていた事があったので、畔が聞いてみると、彼はすんなりと教えてくれた。咄嗟の事だったはずだが、機転を利かせてそんな配慮までしてくれたのだ。畔は何度感謝しても足りないな、と思ってしまう。
『ちなみに、何て呼んだんですか?』
『あぁ、海だよ』
彼の返事を見た瞬間に、畔は驚きで声を上げそうになってしまった。
まさか、そんな事があるのだろうか。
畔は、目を見開いたまま彼を見つめると、彼はきょとんとした様子で不思議そうに畔を見返していた。
『どうして、海なんですか?』
緊張し震える指で、何とか間違えずに言葉を打ち込む。スマホを持つ手がドクンドクンと大きな鼓動により落ちてしまいそうなほどだった。
けれど、彼の答えは畔の予想とは全く違うものだった。
『芥川龍之介の「海のほとり」。君の名前を聞いた時に、すぐにそれを思い付いたんだ。だから、つい海って呼んでしまったんだ』
『そうだったんですね』
こういう時だけは、声ではなく文字でよかったと思ってしまう。
声音で、その人の本当の気持ちまで伝わってしまうものだから。