極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました
14話「彼の音と香り」
14話「彼の音と香り」
彼にとってhotoRiの「青の音色」は悲しい思い出と共にあるのだろうか。
そう思うと、悲しくもあり、だからこそ忘れられてはいけないものもある。
『椿生さんが今日弾いた曲なんですか?やっぱりクラシックとかですか?……ピアノ、あまり得意ではないので、椿生さんが弾いた曲で練習したいんです』
話題を変えようと、そうノートに字を書くと椿生は何故か少しだけ書きにくそうに迷った様子だった。
『実は、自分が昔に作った曲なんだ』
驚きながらも、畔は気づくと『聞いてみたいです』と、勢いよく手話で伝えていた。だが、畔は彼の曲は自分の耳では聞けない。畔はハッとし、手話をするための上げていた腕をゆっくりと下ろした。
バカな事をいっているのだろうか。
そんな風に悲しくなりつつも、畔は俯かずに彼の方を向いて微笑んだ。
そして、『ごめんなさい。変な事を言って』と、ノートに字を書いた。
が、途中でそれは止まってしまった。
椿生が畔の手を包んだのだ。温かい、がっしりとした手で。