極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました
2話「出会いと名前と」

   2話「出会いと歌声と」

 畔の耳は数年前なら聞こえなくなっていた。大きな音ならば聞こえるが、普通の会話はほとんど聞こえない。
 そのため手話を勉強し、手と口の動きで会話を交わしている。始めは手の動きを見るのが精一杯で、口の動きや表情まで見ることが出来なく、相手がどんな気持ちなのか汲み取ることが困難だった。同じ言葉でもその口調で全く雰囲気が変わるのだから、言葉というのは不思議だ。

 畔は耳が聞こえないからこそ、相手の表情やちょっとした仕草の変化に敏感になった。

 そう。
 幼馴染みである叶汰の表情は以前よりも険しくなったのを感じていた。
 彼は手話を覚えて貰ったり、スムーズにやり取りできなかったりで、かなり迷惑をかけている。
 そのため、叶汰は面倒に思っているのではないか。そんな風に思っていた。

 そんな考え事をしながら、畔はこれからの準備をした後に、最後の確認で全身鏡の前に立って身なりを確認した。

 今日の衣装は紺色のロングワンピース。裾にかけて水色のグラデーションになっており、朝日みたいで、気に入っていた。髪はおろしてカチューシャのようにベージュ色のレースを結んでいる。足元は同じくベージュのサンダルだ。
 この衣装は叶汰が準備してくれたものだった。彼は、有名ファッションブランドのデザイナー。まだまだ新人で新作に数点かかわるぐらいだというが、それでも彼がデザインした服はあっという間に完売すると聞いたことがある。幼馴染みという事もあり、自分よりも彼の方が似合う服装を知っていると思っている。今回も納得の衣装だった。
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